脳ドックで脳卒中を予防しよう
脳の健康診断は、わが国では「脳ドック」と呼ばれて広く行われています。
これは、脳の病気、特に脳卒中を症状が無いうちに見つけて予防につなげようとするもので、磁石の原理で脳の画像を撮影するMRIが普及し始めた平成3年より当院でも開始されました。全国の脳神経外科病院で脳ドックが始められたそもそもの動機は、出血しなければ無症状の脳動脈瘤(血管のコブ)が破裂して起こるくも膜下出血の恐ろしさ(半数は死亡ないし寝たきりとなる)で、これを何とか予防したいと考えたからです。
MRIの検査は無侵襲(痛くもかゆくもない)であるため健康診断に向いていて、脳の精密な画像が得られるほかに脳血管も写す(MRA)ことができます。すなわちMRIで(隠れ)脳梗塞と脳の萎縮の診断、MRAで未破裂脳動脈瘤の発見を主目的としているのが脳ドックです。脳卒中を起こす危険因子には高血圧、糖尿病、コレステロール、不整脈、肥満、喫煙、大量の飲酒などがあり、全身の健康状態が反映されるため血液検査や心電図、頚動脈の超音波検査なども行います。多くの受診者は「自分が認知症にならないか」を心配されていますので、いわゆる知能検査(脳の高次機能検査)も行い、これらを総合的に判断して「脳の健康状態」を評価することになります。
隠れ脳梗塞(症状のない脳梗塞で、脳の老化現象ともいえます)が発見された場合には、上記の危険因子への対応が重要となります。未破裂脳動脈瘤が見つかった場合には、その大きさ、形、場所、年齢などを勘案して治療(手術、あるいはカテーテルによる治療)の必要性を慎重に検討します。治療の必要性が低いと判断された場合には、最初は6か月後、その後は年1回、画像診断を行い、大きさや形態の変化を追跡するとともに禁煙と高血圧治療を徹底します。脳ドックでは受診者の約3%に未破裂動脈瘤、10%に隠れ脳梗塞が見つかります。受診前からそのような可能性をご理解いただき、もし診断された場合には当院でもできる限りのご支援をいたしますので、安心してこれを「予防する」と前向きに捉えてくだされば幸いです。
脳ドックの受診をお勧めするのは中高年者で家族歴や高血圧、肥満などの危険因子を有する方です。特にご親戚にくも膜下出血の人がいる場合は、未破裂脳動脈瘤を保有されている可能性が数倍と高くなりますので是非受診されるとよいでしょう。